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静岡地方裁判所 昭和44年(行ウ)12号 判決

浜松市泉町八三七番地の一一〇

原告

池谷麻司

右訴訟代理人弁護士

横田真一

浜松市元城町三七番の一

被告

浜松税務署長

中川庄次

右指定代理人

石田柾夫

佐藤弘二

長沢甲子夫

斎藤健

堀井善吉

内山正信

右当事者間の所得税決定処分取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴をいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者の申立

(一)  原告は第一次的に「被告が昭和四四年三月一四日付で原告の昭和三九年分所得税の更正請求を却下した処分ならびに昭和四一年五月二日付で原告に対してした昭和三九年分所得税七五八、四〇〇円および無申告加算税七五、八〇〇円の賦課決定処分をいずれも取消す。被告は原告に対し金五七九、一〇〇円および内金一九九、一〇〇円に対する昭和四二年一一月一七日から、内金三〇、〇〇〇円に対する同年一一月一九日より、内金三五〇、〇〇〇円に対する昭和四三年四月六日より、それぞれ支払済まで、日歩二銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、予備的に「被告が原告に対し昭和四一年五月二日付でなした昭和三九年分所得税七五八、四〇〇円および無申告加算税七五、八〇〇円の賦課決定処分は無効であることを確認する」との判決を求めた。

(二)  被告は本案前の答弁として主文同旨の判決を、本案に対する答弁として原告の請求をいずれも棄却するとの判決を求めた。

二、原告の主張

(一)  原告は被告に対し昭和三九年分所得について所得税法にいう確定申告をしなかつたところ、被告は原告に対し昭和四一年五月二日付で昭和三九年分譲渡所得二、八九三、五〇〇円、基礎控除一一七、五〇〇円、課税される所得金額二、七七六、〇〇〇円、算出税額七五八、四〇〇円、無申告加算税七五、八〇〇円とする賦課決定した。

(二)  被告が右譲渡所得の発生を認定したのは、原告が昭和三九年中にその所有土地を訴外飯尾みつに売渡したという事実にもとづくものであるが、右売買契約は原告の長男池谷幸市が原告の知らないうちに原告名義で勝手にした無効なものであつて、原告にはこれにより何らの所得も生じなかつた。

仮りに右主張事実が認められないとしても、右売買は金借に伴う譲渡担保の実質を有するものであるから、それを普通の譲渡所得があつたものとして課税したのは違法である。

いずれにしても右課税処分は違法であつて、取消されるべきものである。

(三)  原告は被告に対し昭和四三年一〇月三一日右所得税額などについて更正の請求をした。その理由とするところは、原告と飯尾みつとの間に昭和四三年一〇月一六日成立した調停によつて売買されたという不動産が買主たる飯尾みつから原告に返還されることになつた、というのである。しかるに被告は昭和四四年三月一四日右請求を却下する決定をし、さらに原告の異議申立をも同年五月六日却下した。そこで原告は同年五月二九日名古屋国税局長に対し審査の請求をしたところ、同年八月一三日請求を棄却する裁決があつた。

(四)  しかし被告の更正請求却下決定は原告が主張した理由のとおり違法な処分であつて取消されるべきものである。

(五)  原告は右違法な所得税賦課決定にもとづき、被告に対し昭和四二年一一月一五日金一九九、一〇〇円を、同年同月一七日金三〇、〇〇〇円を、昭和四三年四月四日金三五〇、〇〇〇円を、それぞれ支払つた。

よつて原告はその返還請求権を有し、被告に対し右各金額およびこれに対する各請求趣旨記載の日から返還を受けるまでの間、日歩二銭の割合による還付加算金の支払を求める。

(六)  前記所得税等賦課決定は、仮りに違法な処分で取消されるべきものであるとの主張が認められなくとも、架空の所得に課税したものであるから、無効な処分であるというべきであるので、その無効確認を求める。

三、被告の答弁および主張

(一)  本案前の主張

昭和四一年五月二日付所得税および無申告加算税賦課決定処分(以下本件課税処分という)については、原告は国税通則法に定める不服申立の手続を経ていないから、行政事件訴訟法第八条第一項但書、国税通則法第八七条により、その取消を求める訴は不適法である。

昭和四四年三月一四日付更正請求却下決定処分については、その取消を求める原告の請求は、昭和四五年七月二二日の本訴第五回準備手続期日において、当初の本訴請求(本件課税処分の取消等)に追加されたもので、右処分に対する審査請求を棄却した名古屋国税局長の裁決が原告に通知されてから三ケ月の出訴期間を経過した後になされたものであるから、これについて審判を求める訴は不適法である。

原告が被告に対し納付した金員の返還を求める請求については、権利義務の帰属主体である国に対してなされるべきあつて、被告税務署長は当事者能力を欠くので不適法である。

原告の予備的請求も却下されるべきである。

(二)  原告の主張に対する答弁

原告主張の(一)は認める。

同(二)のうち譲渡所得の発生原因については認め、その余は争う。

同(三)は認める。

同(五)のうち、原告が被告に対しその主張の日に主張の金員を支払つたことは認める。

その余の原告主張事実はすべて争う。

四、証拠

(一)  原告

甲第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二を提出。

(二)  被告

甲号各証の成立を認める。

理由

一、被告が原告主張のそれぞれの日に本件課税処分およびこれに対する更正請求を却下する処分をしたこと、右更正請求却下処分について原告がその主張の如き異議申立および審査請求をし、それらが原告主張のそれぞれの日に棄却されたことは、当事者間に争いがない。

二、原告が本件課税処分について国税通則法に定める不服申立の手続を経由したことを認めるにたりる証拠はない。

したがつて右課税処分の取消を求める原告の訴は不適法として却下を免れない。

三、原告は当初本訴において本件課税処分の取消と納付金員等の返還を求めていたが、昭和四五年七月二二日の本件第五回準備手続期日において請求の趣旨変更の申立をし、前記昭和四四年三月一四日付更正請求却下処分の取消の請求を追加したもので、このことは記録上明らかである。

しかるに右却下処分について原告が名古屋国税局長に審査請求をし、右国税局長が昭和四四年八月一三日付でこれを棄却する旨の裁決がなされたことは前記一に記載のとおりであり、弁論の全趣旨によれば原告はそのころ右裁決があつたことを知つたものと推認される。

そうすると前記訴の変更がなされた昭和四五年七月二二日以前に行政事件訴訟法第一四条第一項に定める三ケ月の出訴期間が経過していたと認められるので右却下処分取消請求に関する訴は、やはり不適法というべきである。

四、原告は被告に対し本件課税処分にもとづいて支払つた金員を、還付加算金を附加して支払えとの請求をしているが、このような請求は権利義務の帰属主体である国に対してなされるべきで、行政庁たる被告が右請求の訴について被告となる適格を有しないことは明らかであるから、原告のこの部分の訴もまた不適法である。

五、本件課税処分の無効確認を求める原告の予備的請求は、行政事件訴訟法第一九条、第一項による関連請求の追加的併合としてみることもできるし(本件課税処分の取消請求と無効確認請求とは同法第一三条六号の関連請求と認められる)、民事訴訟法第二三二条による訴の変更(追加的併合)ともみられる。そして民事訴訟法第二三二条には「但しこれにより著しく訴訟手続を遅延せしむべき場合はこの限りにあらず」とされていて、その場合には訴の変更が許されない。このことは、事柄の性質上関連請求の追加的併合の場合にも準用されるべきである。

ところで原告の予備的請求は、五回にわたる準備手続が終結した後、昭和四五年一〇月二日の口頭弁論期日において、はじめてなされたもので、このことは記録上明らかである。

そして原告の第一次的請求については、原告の訴がいずれも不適法であつて、さらに審理を重ねるまでもなく、却下を免れないことは、前述のとおりである。

そうすると右予備的請求の追加は、第一次的請求に関する訴が既に裁判をなすに熟した段階で新たになされたもので、かつ右予備的請求の当否について裁判するためには、さらに相当の期日を費して審理する必要があるものであるから、そのような訴の追加的併合を許すときは、訴訟手続を著しく遅延させる結果になることが明らかである。

したがつて、右予備的請求の追加は許されない。(なお原告は当裁判所昭和四四年(行ウ)第八号調停調書及農地移転許可並売買契約無効確認等請求事件において飯尾みつに対し、本件課税処分の原因となつた原告と飯尾みつ間の土地売買が無効であることを理由として、土地の引渡、移転登記の抹消などを請求していて、右事件は当裁判所において昭和四五年九月一日口頭弁論が終結された)。

六、前記のとおり原告の訴はいずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水上東作 裁判官 山田真也 裁判官 三上英昭)

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